絡新婦の理

衒学的冒険推理小説

京極夏彦はうまい作家だと思います。
非常に長くて内容的にも濃密な小説にも関わらず、飽きさせることなく一気に読ませる本を、一冊や2冊ではなくずっと書き続けているからです。多くの登場人物の視点を織り交ぜながら、混乱をまねくことなく読者の興味を強く小説に引き寄せ続ける数少ない作家だと思います。

その中でも私が好きな作品の一つがこの小説です。
呉 美由紀が通う中学校での出来事を描くストーリーで顕著ですが、推理小説、冒険もの、青春もののすべてが入っているからです。
京極夏彦が描く少女はとても魅力的です。悩み、迷いながらも自分のすべきことを理解して最善の道を進もうという健やかな意思を描くのが上手なのでしょう。「ルー=ガルー — 忌避すべき狼」に出てきた少女たちも同様に魅力的でした。
また、本作では主にジェンダーに関する考察を交えながら物語が進みます。そしてジェンダーに対する考察を深めることが、本作の犯人たちの行動原理、背景事情を理解することにつながり、物語への感情移入をたかめるのです。そういった物語の構造も、巧みだな、と思えます。
とにかく最初から最後まで好きな作品です。

本作の最初と最後は桜のシーンです。桜が舞い散る中での犯人との対峙のシーンの描写はきわめて映像的であり、織作家の美人姉妹の映像化も楽しみなのでぜひとも映画化して欲しい作品です。

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)