今はもうない(若干ネタばれあり)

S&Mシリーズの異色作

森博嗣の人気シリーズS&M(犀川&萌絵)シリーズの中で一番好きな話です。
読んだ方はわかると思いますが、この作品はシリーズの中でも異色作です。
私は、S&Mシリーズの中でこの作品を初めて読みましたので、シリーズを通じての読者ほどこの異色作への驚きはなかったかもしれませんが、それでも「やられた!」と気持ちのよいだまされ方をしました。

この作品のミステリーとしてのトリックは、よく練られてはいますが正直すごい!という感じは受けませんでした。
いわゆる叙述もののトリックが用いられていますが、それは事件のトリックとしてではありません。しかし、叙述もののミステリーの中では、最も好きな部類のトリックが施されています。
未見の人の興をそぐといけませんのであまり内容には触れませんが、もしこの作品をS&Mシリーズの最後に読んだ人がいたら、それはどのような読書体験だったのだろうとうらやましくなります。
絶対に,登場人物(特に犀川と萌絵の二人)に対する感情移入の度合いが高ければ高いほど、この作品に対する満足度は高くなると思います。

この作品は、ほかにも廃線の線路沿いのデートシーンやお屋敷での密室殺人、ポルシェに対する愛情がわかる記述など、私の好みのシーンが盛りだくさんです。
何度読み返してもいいなあ、いいなあ、と幸せになります。
推理小説好きで、叙述ものがすきな人ならきっと気に入ると思います。

また、まっさらな気持ちでこの作品を読めたらと切に願う。そんな作品です。

今はもうない (講談社文庫)

今はもうない (講談社文庫)