霧越邸殺人事件(若干ネタばれあり)

幻想的本格推理館モノ

この作品を最初に読んだのは小学生のときでした。
そのころ、私は「かまいたちの夜」をきっかけに、推理小説にはまり、とくに「新本格」と呼ばれた一連の作家の小説はむさぼるように読みました。

その中でも、綾辻行人は印象的でした。「十角館の殺人」に始まる館もののシリーズは毎回私をドキドキさせ、驚かせ、そして楽しませてくれました。
彼の作品は、「本格」たろうとする確固たる意思のもとに書かれていることが伝わります。「本格」に対する愛を感じさせるのです。
「本格推理」という枠はきわめて強固であり、小説の可能性を狭めてしまう可能性もあります。
しかし、その狭い枠の中で毎回読者を驚かせる仕掛けを施すワザはとても鮮やかでした。

本作は、その綾辻行人の作品の中でも特別に好きな小説です。
舞台は雪に閉ざされた洋館であり、そこに遭難しかけた、招かれざる客である劇団のメンバー達が迷い込んだことから物語が始まります。
底冷えする洋館の雰囲気や、憂いを秘めたヒロインのキャラクター、そして犯人が犯行に至る必然性(動機)等など。私を魅了する要素の多い作品でした。小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」のような衒学的な要素にも惹かれました。この作品の場合、そのような衒学的な要素も単なる物語の装飾ではなく筋に大きく絡んでいるという違いがあります。

犯人の動機は非現実的に思えるかもしれません(作中でも主人公から指摘されていた気がします。)。私もむろん犯人の動機が殺人に結びつくことには同意できません。
しかし、犯人を行為に駆り立てた「風景」へのあこがれについては私は少し理解できる気がします。理想の「風景」を持つ人は、それを実現しようとする気持ちに駆り立てるときがあるのではないでしょうか。その人が創造を通じて「風景」を実現できる立場にあるのであればなおさら。
多くの人はそれをずっと穏当な方法をつかって実現しようとすることで、気持ちを落ち着かせているのですが、犯人にはそれができなかったのだな、と寂しく思います。
と、このように感情移入をするくらい私はこの作品がすきなので、今年もまた読み返すのだと思います。

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

黒死館殺人事件 (河出文庫)

黒死館殺人事件 (河出文庫)